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千葉地方裁判所 昭和63年(ワ)1683号 判決 1993年4月23日

静岡県富士市伝法八〇七番地の三

原告

大木國男

右訴訟代理人弁護士

平山正剛

卜部忠史

千葉県市川市鬼高二丁目二六番三号

被告

守弘移植重機株式会社

右代表者代表取締役

齋藤守弘

右訴訟代理人弁護士

及川昭二

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金二二一三万四三四〇円及びこれに対する昭和六三年一二月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、次の特許(以下「本件特許」という。)を有している。

発明の名称 樹木の移植工法及びその装置

特許番号 第一一六五〇三一号

出願日 昭和五五年六月二七日

出願番号 昭和五五年第〇八七五〇九号

出願公告日 昭和五七年一一月二四日

出願公告番号 昭和五七年第〇五五三七一号

査定日 昭和五八年二月二五日

発明の数 二

登録日 昭和五八年八月二六日

2(一)  原告は、昭和六一年一一月一八日、被告との間で、本件特許の実施許諾に関する契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

(二)  本件契約の骨子は、次のとおりである。

<1> 実施権の範囲

原告は、被告に対し、本件特許の専用実施権を認める。

<2> 実施料の約定

被告は、原告に対し、本件特許の実施許諾に伴う実施料として、被告が本件特許を実施した製品を使用して請け負った工事の請負出来高総額の二〇パーセントに相当する金員を支払う。

<3> 実施料の支払時期

被告は、原告に対し、発注者から右請負工事代金を受領した日から五日以内に右実施料を支払う。

3(一)  被告は、本件特許を実施した装置を使用して、昭和六一年一一月一八日から昭和六三年八月八日までの間に、訴外鹿島建設株式会社等を発注者とする各請負工事を行い、その代金として請負出来高総額金一億六六六七万一七〇〇円を受領した。

(二)  したがって、被告が本件契約に基づき原告に対し支払うべき約定実施料は、金三三三三万四三四〇円である。

4  被告は、原告に対し、右約定実施料の内金として金一一二〇万円を支払った。

5  よって、原告は、被告に対し、本件契約に基づき、約定実施料残金二二一三万四三四〇円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和六三年一二月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  請求原因2のうち、(一)の事実は認める。(二)のうち、<1>及び<3>の各事実は認め、<2>の事実は否認する。

3  請求原因3のうち、(一)の事実は認め、(二)は否認する。

4  請求原因4のうち、被告が原告に対し約定実施料として金一一二〇万円を支払ったことは認めるが、それが内金であることは否認する。

三  被告の主張

1  被告の不利益陳述

本件契約中の実施料の約定は、被告が、本件特許を実施した製品を使用して請け負った工事のうちの抜取りから植穴まで運ぶ工事部分の請負出来高の二〇パーセントに相当する金員を原告に支払うことを内容とするものである。

2  抗弁(弁済)

被告が行った請求原因3(一)の各請負工事(請負出来高総額金一億六六六七万一七〇〇円)全体のうちの抜取りから植穴まで運ぶ工事部分の請負出来高の二〇パーセントに相当する金額(約定実施料)は、金一一二〇万円であり、被告は、原告に対し、右金員を弁済した。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1は争う。

2  被告の主張2のうち、原告が被告から約定実施料の内金として金一一二〇万円の支払を受けたことは認め、その余は否認する。

第三  証拠関係

記録中の証拠に関する目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1は、当事者間に争いがない。

二  請求原因2(一)並びに同(二)<1>及び<3>の各事実は、当事者間に争いがない。

三  そこで、本件契約中の実施料の約定がどのようなものであったかについて判断する。

1(一)  本件契約に関し作成された甲第一号証(特許の実施許諾契約公正証書)及び甲第五号証(特許の実施許諾契約書)には、いずれも次のような記載がある(甲は原告を、乙は被告をそれぞれ意味する。)。

第四条(実施料)

一、乙は、本件特許の実施許諾に対する実施料として、乙が本件特許を実施した製品を使用して請負った工事の請負出来高(抜取りから植穴まで運ぶ工事の請負出来高)の二〇パーセントの金員を甲に支払うものとする。

第五条(実施報告)

一、乙は甲に対し、前条に定める工事の出来高を記載した文書を逐次明示する外六か月ごとにその実施状況を文書により報告する。

(二)  右実施料の約定中には、特に「抜取りから植穴まで運ぶ工事の請負出来高」との括弧書きがされており、それは実施料の対象となる請負工事の範囲を特に明確にする趣旨で記載されたものと解されること、右実施報告の約定が被告に工事の出来高の明示を逐次要求しており、それは原・被告間で実施料の支払ごとに右範囲の判断を可能にする趣旨と解されること及び被告代表者尋問の結果によれば、本件契約中の実施料の約定は、被告から原告に対し、本件特許の実施許諾の対価として、被告が本件特許を実施した製品を使用して請け負った工事全体のうちの抜取りから植穴まで運ぶ工事部分の請負出来高の二〇パーセントに相当する金員を支払う旨の約定であったと認めるのが相当である。

2(一)  原告は、本件契約中の実施料の約定は請求原因2(二)<2>のとおりであったと主張し、その本人尋問においてこれに沿う供述をする。

(二)  なるほど、甲第二号証、乙第三〇号証の一ないし六、原告本人及び被告代表者の各尋問結果並びに弁論の全趣旨によれば、本件特許は、樹木の移植工法に関する特許と樹木の移植装置に関する特許の二つから構成されていること、被告は樹木の移植を主たる業務とする会社であること、被告の代表者である齋藤守弘は、本件契約締結以前の昭和六一年四月ころ、本件特許の当時の特許権者訴外古川芳美から本件特許を実施した機械を代金数百万円で購入する契約を締結し、右購入代金の一部を土地により代物弁済していること、本件契約(専用実施権の設定)に際し権利金の支払はされなかったこと、したがって、被告としては、本件契約当時、本件特許の実施権を取得する必要性が相当程度高かったことが認められる。

(三)  しかしながら、被告代表者尋問の結果によれば、本件契約締結に際しての原告と被告代表者との話し合いにおいて、当初は、被告が請負工事により得る利益の半分を実施料として支払う案が検討されたが、それでは利益がなければ原告に実施料が支払われないことになるところから、被告が本件特許を実施した製品(機械)を用いた仕事をしたならば、原告に本件特許の実施に見合う実施料が支払われるように、実施料の算出方法を定めた経緯が窺われ、右経緯に、甲第一、第五号証の前記各第四条第一項の文言をあわせ考えると、原告本人の供述及び右(二)認定の事実によっては、請求原因2(二)<2>のとおりの合意の成立を認めることはできず、また、本件契約中の実施料の約定が前記1(二)のとおりのものであったとの認定は左右されないというべきである。

3  請求原因3(一)の事実は、当事者間に争いがない。

4  進んで、右認定の約定による実施料の金額、すなわち、請求原因3(一)の各請負工事全体のうちの抜取りから植穴まで運ぶ工事部分の請負出来高の二〇パーセントに相当する金額について検討する。

(一)  被告は、この点に関し、右二〇パーセントに相当する金額が金一一二〇万円であり、これを弁済したと主張し、金一一二〇万円が、全額であるか内金であるかはともかくとして、約定実施料として被告から原告に支払われたことは、当事者間に争いがない。被告は、その算出根拠として、乙第四三号証(請負工事の内訳ごとに出来高の一般的な比率等を記載した被告作成の報告書)並びに乙第一六、第一九ないし第二一、第二三、第二四号証の各一及び第一七、第一八、第二二、第二五、第二六号証(いずれも、具体的な各請負工事について内訳ごとに出来高の比率・金額を記載した被告作成の内訳書)を提出し、被告代表者は、右乙号各証の記載に沿う趣旨の供述をする。

しかしながら、乙第九号証の一ないし一五(領収証)及び乙第一五号証(被告作成の計数表)中の大木国男欄から窺われる被告から原告への送金状況と右各内訳書から算出される具体的な各請負工事ごとに原告に支払われるべき実施料の金額を比較対照しても、どの金額がどの請負工事に関する実施料として支払われたのかの対応関係が全く明らかでなく、また、右各内訳書から算出される原告に支払われるべき実施料の金額の合計は、金七四六万八〇〇〇円であって、被告主張の前記金額(金一一二〇万円)と一致しないにもかかわらず、本件全証拠によってもその合理的な理由が明らかでないことに照らすと、右各内訳書記載の出来高の比率・金額はにわかに措信し難く、右各内訳書はいずれも採用することができない。そして、前記報告書は、右各内訳書と同様の一般的な比率等を説明したものに過ぎず、被告代表者の前記供述もまた採用することができない。

(二)  また、甲第八号証の二、第九号証の二ないし四、第一〇号証の一ないし一二、一四、第一一号証の三ないし五、第一二号証の二、三、第一三号証の三、四、第一四号証の三ないし一一、第一五号証の二、三及び第一六号証の二ないし三〇(いずれも、請求原因3(一)の各請負工事にかかる請求書、支払伝票、振込金受取書等)の各記載内容からは、前記抜取りから植穴まで運ぶ工事部分の請負出来高の二〇パーセントに相当する金額を判別することはできない。

(三)  そして、他に、右二〇パーセントに相当する金額が、前記のとおり約定実施料として支払済みであることにつき当事者間に争いのない金一一二〇万円ないしこれを上回る金額であることを認めるに足りる証拠はない。

四  以上によれば、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河本誠之 裁判官 安藤裕子 裁判官 高梨直純)

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